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「君、誰?」
蚊の鳴くような声が聞こえ、僕は我にかえりました
…いや、蚊の鳴くような声とは言い過ぎました
あまりにもか細くて聞き逃しそうになったということです
女性が此方を見向きもせずに言ったのです
その姿は待っていたぞともとれる様でした
とりあえず僕は視界に入ろうと女性の前に立ちました
するとゆっくりと視線を上げ、僕を見上げました
あの日以来の対面でした
僕は特別顔が兄に似ているわけでもなく、覚えられているわけでもないのですが、近頃両親から雰囲気が兄に似てきたと言われるようになりました
きっと、この女性もそう思ったのでしょう
僕を見たときに、瞳が僅かに揺れたのです
「君は…もしかして…?」
手で触れた唇がわなわなとしたのを見て、不思議な気持ちになりました
先ほどのような堂々とした姿から一変、出会ったことを遥かに後悔するようなそんな面でした
「はい、弟です」
まるで立場が変わったように、僕ははっきりと言いました
「兄について聞きたいことがあります、お時間よろしいですか?」
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