チキン1つ! アナスタシアと名乗る少女

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「いいですか、チキン界とはファミとエルをはじめ、様々な世界が存在します。確かにエルチキ界やナナチキ界など他のチキン界となれば帰還者もごく僅かではありますがいることにはいます。しかしファミ……の方は」 「ああ、もういいよ。それ以上話すな耳が腐る。それでファミチキがどうしたって? そんなに食いたいの?」  俺はね、本当にただの成り行きでそう訊いただけなんだ。  だからまさかね、その長い灰褐色の髪を勢いよく揺らして、満面の笑みで「はい!」と言われるとは思いもしなかったわけだ。  ………………  ……。 「あああああああ! ゆ、ユキトさん! あなたのお父様とお母様が店頭に並べられていますよ!」  誰かこいつを止めてくれ。  コンビニのホットスナック陳列棚を前に意味不明な言葉を羅列してるこの少女を止めてくれ。  ほら、店員さんも物凄い困った表情を浮かべてるぞ。そこら辺でやめておかないと、そろそろ交番に突き出してやるからな。 「いいからそんなにへばり付くのはやめろ。俺が恥ずかしい」 「私は問題有りません!」 「大有りだ!」 「はうぅ!」  俺の右腕の力が炸裂し、ニコルの頭にクリーンヒット。  あれ、流石に今のはまずかったか、店員の見る目が今度は俺に向けられてる。よもや俺も同類と見られたか。 「ったく、ファミチキだな。で、いくつ欲しいんだ?」  だから俺は、さりげなくレジの前に行き財布を出す。茶化しに来たわけではなく、ちゃんと客としてここに来たことを証明するためにね。  汚名返上と言うわけだ。 「ふたつ!」 「言っておくが俺の金で買うんだからな?」 「じゃあ三つ!」 「『じゃあ』じゃねぇよ『じゃあ』じゃ! お前の辞書には遠慮と言う文字はないのか!」 「えんらく?」  そうか。お前の辞書には常識の文字は一切なく、どうやら娯楽のみで構成されているようだな。 「それは落語だ。いい加減にしないとお前を挽き肉にして店頭に並べてやるぞ」 「ユキトさんのエッチ!」  と、胸元をガッチリガードするニコル。真っ昼間からこいつは一体何を想像してるのだろう。
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