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そんな私自身に変化が起きたのは、人生で17回目の向日葵の季節。
家から一番近い図書館で司書の仕事をしているお母さんに、頼まれた書類を届けに行った日のことである。
面識のある図書館員の方と軽く談話したあと、書架へと足を進めた。
とくに何を読みたかったわけでもない。ただ、このまま帰るのもどうかと思ったからだ。
外国文学の本棚の一角、アンデルセン童話集を見つけた。童話なんて懐かしいと思い、手にとって閲覧室の椅子に座る。
絵本で読んだことのあるものから名前すら知らない物語まで、パラパラと捲っていくと“人魚姫”のページで手が止まった。
家族に反対されながらも、声を失いながらも王子を愛し続けた人魚姫。溢れんばかりの恋心を抱いていても妹のようにしか接してくれない王子様の隣にいて辛くはなかったのだろうか。勘違いの末、別の娘と婚約した彼の背中を、彼女はどんなおもいで見つめていたのだろう。
―――静かな閲覧室に、本の落ちる音がした。人々の視線が音の方へ集まる。
動作の主は学ランを着た学生で、本を拾いながらあらゆる方向に小さく礼をし、私の目の前の椅子に座った。先程落とした本を開き、何事もなかったかのように静かに読み始めた。
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