第一話

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もうじき春が やって来るんだなぁ。 三月の空は澄み渡り、 空気もりんと澄んでいる。 辛く厳しい冬の後には、神様はこんなに素晴らしい季節を用意してくれる。 そして辛かった勉強からも一時解放され、只今春休み真っ最中。 ああ… でも心の春は 一向にやって来ない…。 今日も我が家のリビングのソファには、見慣れ過ぎた「キョン」がドカッと座っている。 「寝たの?」 返事が返ってこない。 「寝たフリすんな」 キョンはモゾモゾと背を向ける。 「寝てたらハイなんて返事するかよ」 「やっぱり寝たフリじゃん」 「なぁ、かほ」 「なに」 「今何時さ」 「もうすぐ6時だよ」 「…ここ座ってみ」 あたしは言われた通りキョンの前に座ってみる。 「それで?」 「あの桜の木の上見てみぃ」 「ふんふん」 「鳥、見えっぺ?」 「見えるさ」 「青のよーな緑のよーな、青のよーなみど」 「幸せの鳥だね」 「…あの鳥が突っついてるとこ」 「うん?」 あたしは目を凝らして見てみる。 「あ、蕾だ!」 ほんの小さな桜の蕾だ。 可愛いな。 「目がいいですね、お兄さん」 ふざけて言いながら、後頭部をキョンの胸に押し付ける。 「かほちゃん」 「なぁに。気色悪い」 「サッカー始まる」 「勝手に付けたらいいでしょう」 「かほ」 「なに」 「……重い。」
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