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20XX年7月8日 夕方
日は沈み
空はまだ微かに明るい。
太陽が焼けて 淡い紫色の空の明かりが、
どこかへ吸い込まれているかのような薄い雲にうっすらと反射し
幻想的な景色が あまり高くない建物の頭上に広がっている。
それを 人通りの少ない閑散とした商店街に立ち尽くし 少年、真神原蒼空(まがみはら そら)は1人、呆然と空を見上げている。
蒼空の蒼いーーーまるで夏の真っ青な空のようなーーー瞳が、幻想的な空の光を反射し 混ざりけの無い綺麗なガラス玉を思わせる。
すると、蒼空は一度空を見上げていた顔を下ろし肩に掛けていた鞄から自前のデジカメを取りだし、それを淡い紫色の空へ向け、仰ぎ、シャッターを切る。
これは 蒼空の日課だ。
蒼空は空が大好きであって、空を長時間眺めた後 デジカメに空を納める。
おそらく、デジカメの中は、いろんな空で一杯になっている事だろう。
蒼空は 迷うことなく淡い紫色の空を保存する。
「………」
デジカメの時計は19:12を表示していた。
そして蒼空は デジカメの電源を切り、肩に掛けている鞄に戻すと、
空に背を向けて少し急いだ様子で足を運んだ。
********************
昼間は 賑やかだった街も静まり返って
太陽も沈み、辺りはすっかり暗闇に包まれていた。
アスファルト貼りの細い路地を抜けた先に
レンガを積み重ねて造った組石構造の小洒落た西洋風の花屋はシャッターを半分閉め、閉店の準備をしていた。
半分閉まったシャッターから漏れる光が眩しい。
「ただいまー母さん」
蒼空は 半分閉まったシャッターをくぐり、はにかんで見せた。
蒼空の自宅は花屋であり
1階が店、2階が居住スペースとなっており、2階の部屋に上がるには1階の店の奥にある階段から上がる。というなんとも不便な構造になっている。
「おかえりおかえりー」
母さんは空の植木鉢を両手で抱え 蒼空に無邪気に笑って見せた。
蒼空は微かに頬を紅くしている。
そうして蒼空は頬を紅くしながら 2階に上がるため 店の奥に進もうとしたのだが――――
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