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すると母さんは日が沈んで暗くなった夜空を見上げていた。
なにがあるわけでもなくただ 暗い空に星がキラキラしているだけで、他に変わった様子もない いつもの夜空。
それでも母さんは、じっと一点を見つめたまま眉1つ動かさない。
「ね ねえ 母さん?」
聖空が心配そうに言ったが母さんの表情は固いまま。
母さんは何を見にきたのだろうか…ただ星を見たくて飛び出して来たのだろうか…植木鉢を落としてまで……
蒼空は固い表情のままの母さんの顔をじっと見つめたままそんなことを思っていた。
と――
「いくらなんでも早すぎる!いったいどうなってる……なぜ気づかなかった……っ」
いつものあの母さんからは絶対聞かないような口調で眉間にシワを寄せる。
この人は誰だ。
視界の端で
聖空と未だに夜空を見続ける母さんと何か会話している
が
蒼空は母さんの見る先を目を凝らしてじっと見ているのに集中していたせいか 会話の内容はわからなかった。
この時間帯、いつも見えるはずの町の明かりの1つである民家の窓から溢れる明かりは今日は見てとれない。
みんながみんな揃って出掛けているのだろう。
あり得ない話だがそうしておく。
蒼空は母さんに何がどうなっていて何を見ていて何を考えてるのか それを聞こうと 母さんの見る先を見ながら 問おうとしたが
「……っ」
声にする前に、一瞬。本当に一瞬。
パッ っと暗く高い夜空に1つの光が蒼空には見えた。気がした。
「聖空、蒼空」
母さんが沈黙を破り、ぼそりと呟く。
「店に…入ってなさ―」
母さん…いやまるで別人の様な母さんが 微かに声を震わせて言う。
「やだよ」
母さん…の言葉を遮るような形でほぼ即答。
聖空はうなだれたまま肩を小刻みに震わせ、拳を握っている。
「聖空…」
母さんは長い髪を1つに縛っている辺りに手を回し、何かを拳の中にいれ、聖空に詰め寄る。
「せ…、た……だ…」
何を言ったのか全く聞き取れなかった。まさに蚊の鳴く声。
そうして聖空の右手にそれを渡し、握らせる。
「…っでも!!」
聖空の声は ほぼ悲鳴となって異様に静まり返った街に響く。
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