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聖空はしばらくその場でうなだれたままだったが
何かを決意したかのように聖空は母さんから渡された それ を強く握った後、涙を手の甲で、ぐしっと拭って 強く頷く。
また涙が溢れそうになったが 頬を伝う前に腕で拭った。
ホッとした様子で母さんは頷き返す。
それを見ていた蒼空は
どこか自分だけ置いていかれた。そんな思いをしていた。心臓を握られたかのように心臓の鼓動が1拍飛ぶ。胸の奥が苦しい。
(母さんと聖空姉はこの状況を把握している。知らされていないのは自分だけ。)
そんな蒼空の視線に気づいたのか、ふと聖空の涙ぐんだ目と合う。
「蒼空…いこう」
聖空は涙で赤く腫れた目を細めて笑う。だがどこかぎこちない笑顔。蒼空の好きな笑顔ではない。気がする。
そう言って蒼空の腕をとり、店内に戻ろうとした。
だが蒼空は聖空の手を振りほどき
「なんで…… なんで僕には何も言わないんだよ……」
聖空の動きが止まる。
「聖空姉は知ってるんでしょ…」
「蒼空は知らない方が…いい。」
聖空は今にも泣き出しそうな顔になり、うつむく。
ちらっと後に立っていた母さんを見たがやはり厳しい表情を浮かべている。
なんだよ!それ!
「なんだよそれ!!」
心のなかで叫んだつもりが声に出していた自分に驚いた。
だが それと同時にもやもやがすべて溢れ出す。
「なんなんだよ!!聖空姉も母さんも!何がしたいんだよ!なんだよこれ!なんでこんなとこでボーっとしてるんだよ!早すぎるってなんだよ!知らない方がいいってなんだよ!なんで泣いてるんだよ!なんだよこれ!ワケわかんないよ!!」
顔が熱い。
頭が熱い。
脳が熱い。
こんなに大声を出したのは初めてだった。喉の奥がズキズキと痛む。
目の前に立っている聖空がぼやけて見える。恐らく涙のせいだろう。
「そんなの蒼空が知って―――
―――ドォォオン
聖空の声を掻き消し、空が割れるかと思わせる轟音とともに一瞬にしてに空が赤く染まった。
今の時間、「夜」を否定し、無理矢理夕焼け空にしたかのように。
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