ある雷の夜のこと

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 雨の中、一台の馬車がぬかるんだ道を走っていた。 どうやらその馬車に乗る人物は急ぎの用事があるらしく、ぬかるみをもろともせずに凄まじい速度を出している。 遠くで一瞬光が見えた後、低い音があたりに響いた。 どうやら雷のようだ。御者はさらに馬車の速度を上げた。  やがて目的の街についたらしく、御者が馬車を降り街の門番に許可書を見せ、門を開けるよう許可を求めた。 この世界には魔物と呼ばれる生物が徘徊しており、ほとんどの町は壁に囲まれ門が設けられている。 この街はここシュロッス国の貴族たちや、大商人が多く住んでいるため、とりわけ警備が厳しく、住民証明書、もしくは許可書を持っていないと入ることができない。  どうやら、許可書が正しく受理されたらしく門番が門を開け始めた。 そして、門が馬車が通れるくらいになると同時に御者は馬を急かし、馬車を走らせ始め、敬礼する門番たちを見もせずに、そのまま街の中へと入った。  街に入った瞬間、石畳が雨に濡れたとき独特のにおいが香る。 やはり、御者はそれを気にすることもなく、道をやや暴走気味に馬車を走らせる。 ところどころから、暴走気味な運転をする馬車に対して非難の声や悲鳴などが上がるが、そんなこともお構いなしに馬車は速度を上げる。  そうして、大きな家の多いこの街の中でも、一際大きい家……いや、屋敷の門が見え始めて、やっと馬車は速度を落とし、門の前でピタリと止まった。    屋敷の門番に御者が先ほどの許可書とは違う紙を見せると、門番は急いで門を開け始めた。 そして、門が馬車が通れるくらいの間隔になると、御者はまた馬車を走らせ始めるが、今度はそれほど速くはない速度であった。 というのも、速度を出す程の距離がないからである。  すぐに馬車は屋敷の前で止まった。 その瞬間、一人の男が馬車の後方から飛び出した。
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