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某月某日。
天気――晴れ。
場所――日本上。
時――HR終わりの教室。
夕日がほの差すこの時刻。
野球部の暑苦しい掛け声と吹奏楽部の練習が聞こえる今。
「アイリスー。かえろーよ」
「かえるよー」
私達はそんな不毛な会話をしていた。
「大河さん。ん」
「はいはい。持てば良いのね?」
大河さん、とは私の事。大河 鈴(オオカワ リン)。それが私のフルネームである。
緑のマフラーをごく自然に押し付けてきた(持たせた、ではない)のは友人。そしてさっき私がアイリスと呼んだのもこいつである。
アイリスといっても外国人ではない。
彼女の本名は滝ノ井 采明(タキノイ アヤメ)。
采明→あやめ→菖蒲→アイリス、とまぁそういう訳だ。あだ名なんて大概がそんなものである。
ん?友人なのになんで名字にさん付けかって?
いや・・・仲良くないわけじゃないんだよ?学校にいる間中ほぼペアで行動する程仲がいいよ?
ただ・・・彼女が「鈴ちゃん」とか呼ぶのは私自身も良く分からないが違和感しかない。
「わー、ありがとー大河さんは優しいなぁ」
「・・・あのね、その分かりやすい棒読みはやめてさっさと鞄に教材をつめろ!アイリスを待ってたら日が暮れてしまうわ!」
さて、このアイリスさん。
勉強が良くできる。やる気だしてもださなくても高得点とってきやがる。
つまり「私勉強してなーい」を地でやったところで問題がない人なのだ。
更に見た目は超美少女。大きめの黒目がちな瞳。肩甲骨より長いくらいの黒いストレートの髪。高い身長。
まさに立てば芍薬、座れば牡丹といった風情ではある。
あるのだが・・・。
その折角の大きな目は死んだ魚のようであるし、口を開けば「だるい」「めんどい」、ついでに無意識な舌打ち。罵詈雑言。毒舌。
とどめに猫背。歩く姿だけは百合の花というより寝不足な人だ。ふらふらふらふら。酔ってるのか?と小一時間問い詰めたい。
つまり、典型的な「黙ってれば美人」ってやつだ。
しかし、彼女、友人外での外面は頗る良好なのだ。
美人なのに鼻にかけず変顔までしてくれるとか、愛想笑いが得意であったりとか・・・皆騙されてる。騙されてるよ。
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