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またノックが響いた。
溜め息をついて僕はドアを開ける。
そこには真っ赤な服を着て、黒いシルクハットを被った中年の男性が立っていた。
年の頃は四十代後半くらいだろう。
血色がよく、てかてかと顔が光っているが、頭髪は白髪混じりでどこかアンバランスに映った。
「今晩は!」
彼はにこやかに言うと、片手を差し出す。
僕は黙ってその手を見つめた。
「今晩は!」
彼はそう繰り返した。
「……どちら様ですか」
僕は手を渋々握って訊ねる。
男の手は酷く冷たかった。
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