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~一ヶ月後~
「いやね、家賃8,000円なのに、それが振り込まれないのはおかしいなぁって思って見に来たらこれですわ」
「あー……佐伯一郎君は、一月前にバイトにも顔を出さなくなっていますね。実家にも帰っていないようですし」
大家と警察官が、朝から慌ただしく部屋の中を調べている。
「それにしても、家賃が8,000円だというのは安過ぎじゃないですか?やはり7年前の事件と関係が?」
「いやあ……まあ、人が死んでる部屋ですからねぇ。変なものも出るようですし」
バツが悪そうに小さな声で呟く大家は、ボリボリと頭を掻いていた。
「引きこもりの息子が、母親を刺したやつですか……」
同じく小さな声で呟いた警察官は部屋を見回して溜め息を吐いた。
争った形跡はない、遺体もない、内側から鍵がかかっていて、鍵は玄関に置いてある。
俺は、失踪したという事で片付けられるだろう。
そして俺の両親は、これからもずっと俺を探し続けるに違いない。
「ん?何だこのシミは……一つじゃなかったか?二つに増えてるじゃないか」
大家が不思議そうに見詰める壁のシミ。
小さくうずくまっているようなシミの隣で……俺もうずくまって部屋の中を見ていた。
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