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しかし、林の中に入って行くことは、清志にとって大冒険に等しかった。臆病者の、清志にとっては……。
茂みの少ない場所を選んで、清志はゆっくりと林の中に入って行った。
草のとげがチクチクと刺さる。膨らんでいる雑草の中から、何やら飛び出してきそうな気がした。少し離れたところに、古木を積んだ盛り上がりが見えている。誰かがいそうな気がしたが、足下が分からない茂みを歩くことは、清志には怖くてできない。
その横にそびえ立つ大木の幹にも、誰かが清志を見る視線を感じた。しかし、清志は高いところが苦手なのだ。
「いつまで探してるんだよ! 日が暮れるじゃないか。もう終わり!」
清志の真上から声がした。大きな木の枝の陰からだ。
その声を合図に、みんなが一斉に飛び出して来て、清志は仲間たちに囲まれた。
「弱虫! 臆病者!」
「お前、それでも男か!」
いつものように散々罵声を浴びた。
「だって、僕……」
「もういいよ。こんな奴に構わないで帰ろうぜ」
清志は動くことができず、ただ下を向いたまま顔を上げることができなかった。
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