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よく耳を澄ましてみると、
「こっちにおいでよ。早く、早く……」
突然、洞窟の中から、澄んだ女のこの声が聞こえた。
「ギェーッ!」
清志は驚いて声を張り上げた。そして転んだ時にぶつけたお尻から、一瞬にして痛みが吹っ飛ぶ。勢いよく飛び上がって駆け出した清志の目の前に、鬼役のケンが立っていた。
「何やってんだよ。まだ隠れてなかっ……」
ケンの声も聞こえないまま、清志は原っぱへと全力疾走していた。そして林をぬけた清志は、再び大きな声を張り上げていた。
その声を聞いて、全員が清志の周りに集まった。
「どうかしたのか。何があったんだよ」
「で……出た……。出たんだ……」
清志の声は震えていた。
「出たって、何が? またションベン漏らしたのか?」
「ゆ、幽霊……。あの洞窟に幽霊が出たんだ」
「洞窟って……。お前、中に入ったのか?」
みんなは幽霊の話より、清志が洞窟の中に入ったかどうかが気になっているようだ。
「入り口の所にいたら、中から女のこの声が聞こえたんだ。こっちに来い、って……」
清志は目を潤ませて訴えた。足は振るえ、歯はガチガチと鳴っている。
「――ははっ、あはははっ! ばっかじゃねえか。お前が臆病者だから、そんなふうに聞こえたんだよ。――やっぱり清志は仲間に入れない方がよさそうだな。また最初っからやり直そうぜ、清志抜きで。な、みんな」
清志の言うことを本気にする人はいない。誰もいなかった。
確かに信じられるような話ではない。清志だって、あれが本当に女の子の声だったのか、自信があるわけではなかった。
二度目のジャンケンに負けて鬼になった女の子を一人残して、みんなが林の中に散らばっていく。そして、清志が一人で泣いていることをあざ笑うように、林の中に複数の笑い声が響いていた……。
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