81人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
「じゃあ、結婚はやめるの?」
「いや、それは分からないが、たとえ結婚したとしても、そう長くは続かないさ」
「どうして?」
「しばらくすると前の旦那みたいに、俺も殺されるかもしれん」
「殺される? 誰に?」
「あの女さ。――あいつ、自分の亭主を殺したんだぜ」
江島の言葉に、春美は耳を疑った。「もちろん自分で手を下したわけじゃない。酔っ払って側溝に落ちた亭主を、そのまま見殺しにしたんだ。助けていれば死なずに済んだものを……」
「そんなこと、なぜあなたが知ってるの?」
と、春美は訊いた。
「そりゃ……俺もそこにいたからさ。亭主が出張だというんで、ちょっと遊んでいくはずだったのが、夜中にひょっこり帰って来やがったんだよ。俺も殴られるのは好きじゃないんでね、そのまま知らん顔して帰って来た、ってわけさ」
「それじゃ、あなたも同罪じゃない!」
春美は叫ぶように言った。
「おっと、俺を殺人者呼ばわりしないでくれよ。俺はあくまでも客だったんだ」
客? 一体どんな客だというの!
春美は怒りがこみ上げて来るのを感じていた。
「子供は?」
春美の声は震えている。「何の罪もない子供の将来を考えたことはないのね」
最初のコメントを投稿しよう!