その七

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「じゃあ、結婚はやめるの?」 「いや、それは分からないが、たとえ結婚したとしても、そう長くは続かないさ」 「どうして?」 「しばらくすると前の旦那みたいに、俺も殺されるかもしれん」 「殺される? 誰に?」 「あの女さ。――あいつ、自分の亭主を殺したんだぜ」  江島の言葉に、春美は耳を疑った。「もちろん自分で手を下したわけじゃない。酔っ払って側溝に落ちた亭主を、そのまま見殺しにしたんだ。助けていれば死なずに済んだものを……」 「そんなこと、なぜあなたが知ってるの?」  と、春美は訊いた。 「そりゃ……俺もそこにいたからさ。亭主が出張だというんで、ちょっと遊んでいくはずだったのが、夜中にひょっこり帰って来やがったんだよ。俺も殴られるのは好きじゃないんでね、そのまま知らん顔して帰って来た、ってわけさ」 「それじゃ、あなたも同罪じゃない!」  春美は叫ぶように言った。 「おっと、俺を殺人者呼ばわりしないでくれよ。俺はあくまでも客だったんだ」  客? 一体どんな客だというの!  春美は怒りがこみ上げて来るのを感じていた。 「子供は?」  春美の声は震えている。「何の罪もない子供の将来を考えたことはないのね」
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