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突然ドアが開いて、白い顔の人形が目の前に現われたのだ。
驚いた拍子に足を滑らせ、階段から落ちそうになった俊子の腕を、信二はとっさに?んでいた。
「お母さん、大丈夫?」
人形を抱いた信二が、心配そうに訊いた。
「あんた……何やってるの! びっくりするじゃない!」
「びっくりするのはこっちだよ。そこにいるの、知らなかったんだから」
と、信二が困惑している。
ま、それはそうかもしれないが、あの人形を間近に見ると、古風な幽霊が出現したようにしか見えないのだ。
――いつだったろうか。数年前、その人形は信二がどこからか拾って来た物だった。
着物を着た日本人形のようでもあるが、黒い髪は肩まで伸びて、眉の上はまっすぐ切り揃えてある。白地に赤い花柄の着物は、泥まみれになっていたのか、ひどく汚れていた。
白かったであろう顔もすすけて、細く墨で書かれた目がかすむほどであった。
「そんな物、捨ててきなさい。気持ち悪い……」
最初に見つけたとき、俊子はそう言って信二を叱った。
「いいじゃないか。僕の大事な友達なんだから」
信二はそう言い返していた。
それ以来、信二はいつもその人形を放さなかったのである。
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