その一

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 突然ドアが開いて、白い顔の人形が目の前に現われたのだ。  驚いた拍子に足を滑らせ、階段から落ちそうになった俊子の腕を、信二はとっさに?んでいた。 「お母さん、大丈夫?」  人形を抱いた信二が、心配そうに訊いた。 「あんた……何やってるの! びっくりするじゃない!」 「びっくりするのはこっちだよ。そこにいるの、知らなかったんだから」  と、信二が困惑している。  ま、それはそうかもしれないが、あの人形を間近に見ると、古風な幽霊が出現したようにしか見えないのだ。  ――いつだったろうか。数年前、その人形は信二がどこからか拾って来た物だった。  着物を着た日本人形のようでもあるが、黒い髪は肩まで伸びて、眉の上はまっすぐ切り揃えてある。白地に赤い花柄の着物は、泥まみれになっていたのか、ひどく汚れていた。  白かったであろう顔もすすけて、細く墨で書かれた目がかすむほどであった。 「そんな物、捨ててきなさい。気持ち悪い……」  最初に見つけたとき、俊子はそう言って信二を叱った。 「いいじゃないか。僕の大事な友達なんだから」  信二はそう言い返していた。  それ以来、信二はいつもその人形を放さなかったのである。  
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