81人が本棚に入れています
本棚に追加
その人形を手に持ってたとはいえ、ちょうど俊子の目線だったから、いかにも浮かんでいるように見えたのだ。
――部屋に入って、やっと落ち着いた俊子は、
「ねえ……相談があるんだけど」
と、ベッドに腰掛けて、信二の顔色をうかがうようにそっと言った。
「なあに?」
と、信二はそっけない。「お金はないよ。ゲーム買ったから。それにこの前貸したばっかりじゃん」
「ごめん……。お給料が入ったら、すぐ返すから」
しまった! そういえば、先週借金したばかりだ。忘れていたわけではないが、まだ返す余裕はない。
たかが一万円ではあるが、信二にとっては大金だ。毎月こつこつと貯めているお小遣いがどれだけあるのか知らないが、ちゃっかり者で、しっかりと貯め込んでいるらしい。
申し訳ない、と思いながらも、今まで育てて来たんだから、それくらいの金額、「相殺」してくれたっていいじゃない! なんて親らしからぬことを考えていると……。
「――おめでとう」
突然、信二がボソッと言った。
「――え?」
「結婚するんだろ」
「うん……まあ……」
「あのお金、返さなくていいよ」
「だって……」
最初のコメントを投稿しよう!