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「あのガキか。子供なんてものは、放っておけば勝手に成長していくさ。あの薄気味悪い人形と一緒にな」
江島はそう言って、つばを吐き捨てた。
「人形って……あの子が持っている人形のことよね」
春美は江島の言葉に反応した。「あの人形、どうしたの? いつからもってるの?」
「あれは亭主の土産だったらしい。どこから買ってきたのか知らないが、親が親なら、子も子だぜ。側溝に落ちた父親が大事そうに抱えていた人形を、女の子みたいにいつも抱いているんだ。全く、気色悪い」
「土産……」
「母親も冷酷だが、あのガキだって冷たいものさ」
と、江島は言った。「死にかけた父親の腕から、土産だけを奪って来たんだから」
やっぱりそうだ。マネージャーが言っていた建設会社の営業マンとは、あの子の父親なのだ。
旅館の改装に向けて先代の社長と話を進めているうちに、気に入られてあの人形をもらって来たのであろう。
そして、たまたま運悪く側溝に……。
しかしあの子は、母親を愛していなかったのだろうか。土産を買ってくる父親を、慕っていなかったのだろうか。
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