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私は一週間程、日を置いて、体調の良い日に、また永田さんの居るバーへと仕事帰りに寄った。
「こんばんは」
「いらっしゃい」
私の顔を見て、すぐさまカクテルの準備をする永田さん。
店の店主だろうか、黒スーツの男性が私の側に来て、ポツリ小声で言った。
「お客様。しばらく、いらっしゃらなかったから、彼はとても心配していましたよ」
「えっ、そうなんですか?」
「だから、ほら。彼、背を向けてるでしょ?実はあれ、照れ隠し」
黒スーツの男性は、そう言って裏へと去って行っ た。
「まったく、何を植え付けてんのか」
永田さんは、呆れた口調で言っていた。
聞こえていたんだ。
「仕事でシステムが変わる事になって、また一から覚えなきゃならくなって。帰りも遅くなって、 お店に寄れませんでした。すいません、心配かけさせてしまって」
「やだな、謝らない下さいよ。益々僕がキマズイじゃないですか」
私は、そんな可愛いハニカミ笑顔に思わず腹を抱えて笑った。
「こら、笑い過ぎですよ」
「あはは(笑)、すいません」
「今夜も気分良さそうですね?」
「はい、あれから大嫌いな女に嫌われたおかげで、無理な付き合いもしなくて済むようになりましたし、ストレスも解消されたので。今はとても楽しく仕事が出来ています」
「じゃあ、これでやっと嫌な事を忘れられた訳ですね」
「要するに、そういう事です」
私達は、また顔を見合せて笑い合った。
「じゃあ、今夜は酔って是非とも気持ち良くなって帰って頂きたいので、僕の本当のキスのあじでも、ご馳走しますよ」
「はい、ありがとうございます!」
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