2、良い話

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カシャカシャと音を立ててシェイクする。 今夜はやっぱり気分が良くて、その音を聞いているだけで、楽しい気持ちになり、永田さんと笑い合っていた。 「貴重面ですよね?」 私は知りたくて、いくつも質問する。 「全然」 「うそだぁ。だっていつも綺麗にテーブルの上してるし、グラスやシェイカー磨いてますもん」 「お店のモノにはね。家では、いい加減」 「そんなふうに見えなーい」 何歳なんだろう。 何型なんだろう。 誕生日は、いつなんだろう。 趣味は? 車は何を乗ってるの? どこら辺に住んでるの? 聞きたい。 知りたい。 でも、がっついてるみたいでみっともなくて聞けない。 アルコールの入った「キスのあじ」を差し出され、私は少しだけ眺めて、口の中へと注ぐ。 「今夜は僕のキスのあじ、どんな味?」 私はそう言われて、喉に通す。 あれっ…。 私はもう一口、二口と飲み込む。 あれっ、あれっ…。 胸が熱くなり、それは徐々に上へと登り詰めて、私の顔を赤面させた。 「やばーっ…」 私は恥ずかしくて顔を隠すと、 「ちょっと待って」 と、永田さんは冷たいおしぼりと冷水をくれた。 「ダメだ、こんなちょっとで回るなんて恥ずかしいな」 「本当に弱いんだね。ごめんね、加減したつもりだったんだけど」 私は手のひらで、顔を扇いで、片方の手で、水の入ったグラスを頬に当てた。 でも酔ってしまったから、今夜は少しだけ、長くこの場所にとどまれる。 だから、ラッキーかも。 「らくな格好していた方がいい」 そう言われて、私は冷たいカウンターテーブルに顔を埋めて、瞳を閉じた。 脈を身体全体で感じながら、その脈の動きに呼吸を合わせて、落ち着かせる。 心配してくれる店の店主の声がした。 「彼女、大丈夫か?」 「ちょっと心配」 「もう少し落ち着いたら、家まで送ってやったら?」 「いや、でも俺まだ仕事が…」 「いいよ、彼女のお代は俺のツケにしとくし。今夜はこのまま抜けて、あがれ」 「はい、すいません」
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