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まさか、こんな事になるだなんて。
私は赤面状態から、少しずつ頭がガンガンしてきて、朦朧としていた。
しばらくして私の背中に上着を被せて、声が聞こえた。
「立てれる?」
「はい」
肩に触れる温かくて大きな手に、私は支えられて、店の前に横付けされた車に乗り込んだ。
何だかグッタリしちゃって、余り視界が広く見渡せない。
「家はどの辺り?」
「この道を角まで突き当たり、左に曲がったとこのコンビニの近く…」
「あぁ、あそこね」
永田さんの声。
私はやっぱり、送って貰ってるんだ。
目を閉じて、感じていた。
この人の隣に居る事を。
鼻をすする音、咳払い、それから服がすれる音、それから…。
私は、ほんの一瞬だけあまりの心地良さに眠ってしまった。
ハッ…!
車のエンジン音。
明らかにどこかで停車しているような。
コンビニのネオンが見えた。
うちの近くのコンビニの駐車場?
「目、覚めた?いいよ、まだもう少し目を閉じていても。ちゃんと送ってあげるから」
「うん…。あの、ごめんなさい。私、迷惑掛けちゃったよね。お仕事まだ途中だったのに」
「いいって、気にしなくても。それより、顔まだ赤いね。本当にお酒飲めない子なんだね。無理に薦めて、悪かった」
呟くような。
囁くような。
深くて、低くて、重くて、けど優しくて、温かくて、溶けてしまうくらいの甘い声に、私は完全に気持ち良くなってしまっていた。
私の中途半端に着ている上着を、しっかりと包み込んでくれた永田さんの手に、私は思わず頬を寄せた。
「あなたは本当に優しい人です」
いつかの、優しさを掲げて人から好かれようとは思わない、と言った言葉を私は思い出した。
「実際のあなたは絶対、人から嫌われたりだなんてしていないですよ」
自分を悪く評価している。
「欠点なんかじゃない、それがあなたの魅力ですよ」
自分でも突然、何を言っているのかサッパリなんだけど。
思ったままを、口に出していた。
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