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永田さんの手は、私の頬を触っていた。
その手に私は、また自分の手を当てた。
「良いように言われると反応に困るな…」
しばらく、二人とも黙ったまま。
車が道路を走り抜ける音が、車内に響く。
「聞いてもいい?」
「何?」
「名前、何て言うの?」
「知りたい?」
「知りたい」
私はわざと小さな声で、自分の名前を言う。
「えっ?」
小さな声で。
だって、もっと近付きたいから。
永田さんは私の顔に、自分の顔を寄せた。
「トシコ」
「トシコ?」
そう言って、すぐ側で視線を合わした。
うわっ、めっちゃ綺麗な顔。
外からのもれた光が、永田さんの綺麗な顔をうっすらと照らす。
自分から誘うみたいな事をして、私はバカ正直に、また更に赤面して、心臓がバクバクしてしまって、息苦しくなってしまった。
バカだ、私!
ヒャー!恥ずかしい!
「どう書くの?」
「びっ、敏感のびっ、びん!」
逃げたい!
今すぐ逃げ出したい!
「へぇ、なるほどねぇ。その名の通りだね」
永田さんは意地悪に私の頬に、親指を立ててなぞる。
ダメ!
身体がビクッとしちゃう。
「目、覚めたね。そろそろ自宅まで送るよ」
あっさり送るよ、と言われて少しガックリした。
キスされちゃうかもって思ったんだけどな。
期待すると、やっぱりダメだね。
「はい」
私は笑顔で答えた。
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