3、嬉しい話

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それから何だか、永田さんとの距離が縮まった気がして、私の恋心はもっと大きく膨らんでいった。 ある時、お店に行くと私のいつもの席に別の女性が座っていて、私は少しだけショックだった。 あそこに座ってるって事は、初めてのお客さん? 初めてのお客さんに、応対するのはやっぱり永田さんなの? そして、永田さんが差し出すカクテルは「キスの あじ」…。 私はギュツと握った手を胸に置いた。 「いらっしゃい」 「えっ?」 背後から声がして、振り返る。 「今夜は早いね」 「あれっ」 私は自分のいつもの席を、しっかり見ると、違うバーテンダーが水色のカクテルを差し出していた。 「なんだ、よかった…」 そっか。 今夜の私は早くあなたに会いたくて、急いでお店に辿り着いたんだっけ。 「いつもの席は使用中だから、今夜はこっちで」 いつもとは真逆の薄暗いカウンター席へと誘導された。 椅子を引いてもらって、私は座る。 「じゃあ、今夜もチェリーの入ったキスのあじね」 「うん。ノンアルコールでお願いします」 「仰せの通りに、お姫様」 笑えるわー。(笑) もちろん、チェリーにキスしてもらって。 私もそのチェリーにキスして食べるの。 間接キスか。 ちゃんとしたキス、永田さんとしたいな。 叶わぬ夢かな。 私は、あなたの事が好き。 でも、あなたにとったら私はやっぱり、ただの常連客なのかな。 今夜は、カクテルの種類の話をした。 その話をしながら、私は永田さんに念じていた。 私の好きが、あなたに届きますように…と。
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