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「ちょっと侵害だな、それ」
「ごっ、ごめんなさい」
調子良く話が展開してたから、ついつい聞いてしまったんだけど。
知りたかったから。
永田さんの本当の心の中が。
「前にも話たけど、基本的に俺は特別、人と一対一では向き合わないし群れるのも、好きじゃない。優しいとか、好かれたいとも思わない。だから、こうやってオーダーの入ったカクテルを、ただただ、ひたすら作ってる」
視線が、何だか凄く痛い。
もしかして、ちょっとだけ怒ってるの?
私は…私はただ…。
みんなに、私と同じ事をしていたら、嫌だなって、不安になっちゃって…。
好きな人からも特別な存在でいたいよなって…。
好きって思われたくて…。
「メニューにもないカクテルを、毎回ノンアルコールで、敏子に差し出すのは、どうしてか。だなんて、何となく意味分かって、お店に来てくれてると思ってんだけど…ショックだね」
あの、わっ、私は…。
敏感のようで、鈍感だから。
察するのに、手間と時間がかかるっていうか。
不確かなものを、確かだと思えないっていうか。
私は永田さんに見つめられて、逆に何も答えられなくなっていた。
私は、余計な事を言ってしまった。
この空気の重みに、少しだけ自業自得をあじわっていた。
今夜の「キスのあじ」は、そんな味がした。
「ごめんなさい」
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