Last Holiday

AM11:00

　そのロックバンドのギターヴォーカルの使用しているギターは僕の憧れで、眺めれば眺める程欲しくなってくる。

―――そうだ、買おう。

　僕は部屋に戻り、本棚の裏に隠されているへそくりの中身を確認した。
　一万円札が三十枚も入っているが、ギターを買うには少しばかり足りないかもしれない。
　だがきっとなんとかなると考え、身支度をし、テレビの中のロックバンドともおさらばし、大切な人から貰った腕時計を左腕に絞め、僕は家を飛び出した。
　外に出てもう一度振り返って僕の家を見た。

「いってきます」

　乾いた声が空気を小さく震わせた。もう帰る事もないだろう。