恋人

2/2
前へ
/67ページ
次へ
蝉の声が まばらになった 9月の事です 古い僕のアパートに 僕と僕の恋人がいます 今夜 恋人は19回目の 誕生日を迎えます 「プレゼントは  何がいい?」 一昨日 前髪を切りすぎた 僕が聞きます 「なんでもいいの?」 待ってました、とでも 言うように ベッドの上で足を ばたつかせながら 恋人が言います 「可能な範囲で」 少しチキンな 僕が答えます 「私、雪が見たい」 僕を神様か魔法使いだと 勘違いしているであろう 恋人が言います 「今夜はちょっと  無理だよ」 いつならいいの? と、聞かれるのが恐い チキンな僕が言います 「今夜じゃなくても  いいの」 もう誕生日とか 関係なくなってきた 恋人が笑顔で言います 「分かったよ」 エアコンの設定温度を 最低にして 僕が言います 「何してるの?」 19才まで 1時間を切った 恋人が聞きます 「寒い?」 19才になったばかりの 恋人に聞きます 「寒くないよ」 一緒に毛布にくるまった 僕の恋人が笑います 外では かすかに蝉の声が 聞こえます 「誕生日プレゼントは  何がいい?」 9月の古いアパート 効きすぎたエアコンの中 毛布にくるまった 恋人が聞きます 「僕も雪が見たい」 1月生まれの 僕が言います 「君と一緒に」 9月生まれの 僕の恋人に言います 「顔が赤いよ」 真っ暗な部屋の中で 僕の恋人が笑いました  
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加