少年は飼い犬の亡骸を抱いて泣く。

2/2
前へ
/7ページ
次へ
 和泉紫苑は夏が嫌いだ。  そして、冬が嫌いだ。  その理由を彼に尋ねると、彼は必ずこう答える。 『だって、夏と冬は死ぬ生き物が多いじゃないか。』  夏の暑さ、そして冬の寒さは生物を死へ誘う。  しかし、彼が死を嫌うのは優しさが理由ではなく、ただ視界に他人には見えない黒い時計が写り込むからだと彼は語った。  そんな夏のある日、彼がいつも通り登校するために家を出た時の事だった。  いつも通りに尻尾を振って送り出す飼い犬。  彼は、その頭上に黒い時計を見た。  指し示す時間は、5時半。  現在の時間が午前7時半であることから、0時を指し示すのは午後一時。  登校したのであればちょうど昼休みの時間だろう。  彼は涙を流し、飼い犬を抱きしめる。 「もうお前には会えないけど、大好きだよ。」  頭を撫で、涙を拭いて彼は飼い犬に笑いかける。  そして、いつも通りに登校する。  その日1日、彼は授業に集中できなかった。  そして放課後、いつも通りに帰宅。  ただ一ついつもと違う事は、尻尾を振ってじゃれついてくる飼い犬がいないことだろう。  彼の言葉通り、飼い犬は息絶えており、彼はその亡骸を抱きしめて涙を流した。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加