少年は街を見てため息をつく。

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 夏のとある日、彼はこの夏何度目になるかわからないため息をついた。  視界を埋め尽くす大量の時計。  その大半が蝉のものであるのだが、その中にもいくつか、人間のものが混じっている。 「あ、人間12個目だ。」  時計がちょうど一周する数字、それは知り合いのものだった。  大学のサークルで出会った青年。  そういえば彼は明日の明け方から釣りを始めるために今晩から出かけると言っていた。 「時間からすると今晩のうちか……。」  小さく呟き、紫苑は彼を“実験”に使うために声をかける。 「――さん、今晩出るんですよね?」  不意に後ろから声をかけられたらからだろうか、彼はびっくりした表情を浮かべてから頷く。 「迷惑じゃなければ、僕もご一緒してよろしいですか?前から釣りに興味があったんですが、なかなか手が出せなくて。」  彼の言葉に、青年は少し考えた後に頷く。  その瞬間、彼の頭上の時計は消滅した。  紫苑はそれを見て、安心したかのように笑う。  彼はそれを見て、断られると思ったのだろうと自己完結して、時間を伝えて去っていった。  紫苑はその足で釣具屋へ向かい、道具を一式買い揃える事になったのだが、それはまた別の話。
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