日常から

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その日も僕は通勤電車に揺られていた。 いつもの車両のいつもの座席。 その電車は僕が乗り込む駅ではまだそれほど混んでいないので、ほとんどの場合はいつもと同じ場所の座席に座ることが出来る。 自分で勝手に思っているだけなのだが、そこが僕の指定席なのだ。 そのあと乗りはじめてから数駅で乗車する人も増えて、すぐに座席はいっぱいになる。 ある朝。 いつものようにいつもの座席に座り列車に揺られていた。 座席が埋め尽くされて、乗り込んでくる人がつり革につかまるようになった頃、僕の前にも一人の女性が立った。 とてもキレイで可愛らしいコだ。 毎日の通勤でその列車に乗っていると、たいがいの人は見かけたことのある顔ばかりなのだが、その女性を見るのは初めてだった。 一見、大学生にも見えるけれど、きちっとしたその装いからするにきっと社会人なのだろう。 そのうちに僕が降りる駅が近づいてきた。 そして、その女性よりも先に僕は列車を降りる事になる。 僕が今まで座っていた席は空くので、当然目の前に立っていた彼女がそこに座わる。 そして僕はホームに降り、会社に向かうのだった。 それからは、日を追うごとに彼女は僕の前に立つ回数が増え、いつしか必ず僕の前に立つようになった。 それはよくある話しで、同じサイクルの通勤をしているのだから、僕の前に立てば数駅先で必ず座れることが分かっているから、そこが彼女の毎朝の定位置になったのだ。 何日か経った時、いつものように彼女が列車に乗り込んでくるとボクの前に立った。 すると彼女は僕に向かって「おはようございます」と笑顔で挨拶をしてきた。 僕は少しびっくりしたが、「お、おはようございます!」と返す。 そりゃそうだと思った。 これだけ毎朝顔を合わせているんだから、知らないふりをしているのも逆に不自然だ。 堂々と挨拶が出来る彼女の事を少し大人なんだなぁと僕は思った。 それから毎朝、挨拶交わすことになった。 ただそれだけで、それ以上の会話は何もない。 それでも毎日が少し楽しくなった。
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