天国かと思った。

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そこは、うすく白い靄がかかった場所だった。 なんとなく空気が、ほんのりと桃の色に色づいているようにも見える。 そのまっただ中に大の字になって寝そべっている少年が一人。 少年は背格好はもう成長期に入ったところのようだが、しかしその寝顔にはまだ幼児のようなあどけなさをも持っているようだ。九つになったばかり、といったところだろうか。 その黒い前髪をきっちりと揃え、黒縁の大きなメガネをかけている。 ”いかにも優等生” そんな言葉が自然と口に出る雰囲気を醸し出していた。 少年の横には、髭を生やした青年がしゃがみこんでじっと彼を見つめている。 「こいつ、いつおきるんだ?」 少年と彼の二人だけしかいないその空間に青年は問いかけた。誰かいるのだろうか… 『あちら側からその中身がきたとき、そんなときに戻ってくるんだと思うわよ?』 その他に誰もいない空間。いないはずのどこから、突如どこからか中年女性の優しい声がした。しかしその声に特に驚く様子もなく、青年はその声の主に応ずる。 「ふーん……つまんねーの。こんなときにコイツとあえるなんてこと、まさに奇跡なのに。ちょっと悪戯してやろう!」 そう言うと、青年はおもむろに彼の耳をつまんだ。はじめは大声を出そうと息を大きく吸い込んでいた青年であったが、やはりこの少年の優しい顔を見て考えを改めたのだろう。 「おーい、起きろ。朝だぞ」 柔らかい声でそういった。 「起きない…つまんでやれ!」 青年はそう言って彼の頬をつまみ、ぐにいいい!と引っ張った。 「起きないいいいい!」 苛立つ青年はさらに追い討ちをかけるように、右から左、変わって、左から右。 ぐにゃぐにゃムニムニとその指を動かした。 『無駄なのよ、言ったでしょ?まだこられないの、大人しく待っていなさい。』 青年に対しての言葉なのに、まるで赤子をあやすようにいうその声。 「なぁ、おばちゃん」 『ん?』 「こんなことってほんとにあるんだな…」 『それがね、前にもきたことあるのよ。私の予想では、きっかけは…あ・な・た・た・ち』 くすっ と女性の笑い声がその場に響く 「へ?俺らが」 青年は想像もしていなかったようで、目を見開いて自分を指さし驚いた。 『そ!その時もおんなじ状況だったもの。引っ張られてきたんじゃないのかな。』
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