冒頭

1/2
前へ
/4ページ
次へ

冒頭

気付けば暗闇の中に俺はいた。 自分の体を目視できる事は先程確認した。しかし、それ以外に何も見えないのだ。自分が立っているのが地面なのかも分からない。 まぁ、夢だろう。明晰夢の類に違いない。 それにしても殺風景だ。夢の中くらいは自由でいたいとは思っていたが、ここまで何もないと、自由の意味がない。 自力で起きることができればいいが、如何せん初体験だ。自由ではあるが、勝手が分からん。 何か想像すれば風景が変わるかとも思ったが、暗闇のまま。 誰かが起こしてくれるまで暇してろということか。 「いや、客人に退屈させるつもりはないよ。楽しくはないだろうがね。」 姿はない。声だけが、まるで耳元で話しかけてくるような正確な音質で届いた。 しかし聞き覚えの無い声だ。俺の周りどころか、テレビに出演しているタレントにも、これほど人を小馬鹿にしたようなトーンで喋る奴はいない。 「他人の血の味も知らないというのに、こんなところまで入ってこれるということは、よほどの才能がおありのようだ。 貴重だね。人一人の一生じゃとてもお目にかかれない。」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加