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冒頭
気付けば暗闇の中に俺はいた。
自分の体を目視できる事は先程確認した。しかし、それ以外に何も見えないのだ。自分が立っているのが地面なのかも分からない。
まぁ、夢だろう。明晰夢の類に違いない。
それにしても殺風景だ。夢の中くらいは自由でいたいとは思っていたが、ここまで何もないと、自由の意味がない。
自力で起きることができればいいが、如何せん初体験だ。自由ではあるが、勝手が分からん。
何か想像すれば風景が変わるかとも思ったが、暗闇のまま。
誰かが起こしてくれるまで暇してろということか。
「いや、客人に退屈させるつもりはないよ。楽しくはないだろうがね。」
姿はない。声だけが、まるで耳元で話しかけてくるような正確な音質で届いた。
しかし聞き覚えの無い声だ。俺の周りどころか、テレビに出演しているタレントにも、これほど人を小馬鹿にしたようなトーンで喋る奴はいない。
「他人の血の味も知らないというのに、こんなところまで入ってこれるということは、よほどの才能がおありのようだ。
貴重だね。人一人の一生じゃとてもお目にかかれない。」
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