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雲行きが怪しくなってきたのは、そいつとの暮らしも3か月目を迎えるころだった。
あたしの属するマフィア組織 ロッソ プローヴァでは、数か月前から隣のギャング集団との小競り合いに少しずつ疲弊の色が見え始めていた。それに加え、反対の隣町を仕切る別のマフィア組織からもちょっかいを出されていた。
基本的に、あたしは下っ端構成員だから、あんまり実戦に出向くことは少なかったけど、ある日ボス直々に本部屋敷に呼ばれた。町の中心部に建つ本部屋敷へ行くのは数年ぶりのことだった。
「マリア、久しぶりだな」
かなり昔、初めて会った時のどこかあどけなかった若いボスは、ここ数年で貫録を増し、立派な跡取りらしく成長してた。物調面は相変わらずで、でもあたしが出会ったときからずっと、忠義を重んじる実直な姿勢は変わってなかった。昔から、あたしが本名を呼ばせるのはこのボスと、今になってはイザーの2人だけだ。
「ボスも、ごけんこーそうで何よりだな」
あたしの言い草に、周りで聞いていた幹部連中は何か言いたい顔をしていたけどボスが笑ってそれをなだめた。
「最近男が出来たそうだな…そんなにいい奴なのか。
随分性格も丸くなったって聞いたんだが、そうでもねーか?」
ボスの軽口に、あたしは肩をすくめるだけだった。
「ま、今はそれはいいか。
本題に入ろう……」
ボスの話によると、うちの縄張りを狙う隣のマフィアが最近より活発な動きをし始めたらしかった。そして、そのマフィアとギャング集団が密約を交わしてうちを狙っているとの情報を得、今回の作戦ではうちの縄張りに入り込んでいるマフィアのスパイを始末しようということだった。
「それで…あたしは何をすればいいんだ」
「なに、簡単な囮役だ。それと、場合によっては処刑役を頼むことになるかもな」
「へー、久々の実戦じゃん。
腕が鳴るねぇ…」
「頼むぜ…おまえにかかってるんだ」
この時、ボスがにやりと笑った意味が分かったのは作戦が始まってからだった。
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