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「…ネズミが誘い込まれたぞ」
伝令役の報告に、あたしは黒い銃の安全バーのロックを解除してコートに忍ばせた。荒廃した団地の路地裏から見上げた空は真っ青だった。
深呼吸して気持ちを落ち着ける。
あたしの役目はここにやってくる人物を足止めして場所を知らせ、狙撃班に狙いを定める時を稼ぐことだった。
静かに待つ。
遙か後方から、誰かが駆けてくる足音がした。
あたしは路地から飛び出して、自分の目を疑った。
「イザー…………あんた、こんなとこで何やってんだよ」
あたしはそこで撃つはずの銃を反射的に下げ、目の前の男に叫ぶしかなかった。
「ごめん…マリア。
君には見られたくなかった」
そいつは…イザーは…あたしに向かって黒い銃口を差し向けた。
一体これまでどこに隠し持っていたんだろう。
イザーの部屋では決して見たことはない。そういうものだった。
「お前がマフィアだなんて、微塵も思ったことなかったよ」
「僕は、マリアがロッソ プローヴァの人間だって、初めから分かってた」
「騙してたのか」
「そんなつもりは無かったよ。結果的にそうなったけど。
僕は純粋に君を好きになったんだ」
「そんなこと、信じられると思うか…?」
「何を信じるも、君の自由だ、マリア」
「その名前を呼ぶな!」
「どうやら僕にはもう時間がない。
そこをどいてくれるかい、マリア」
「…通りたかったら、力ずくで通りやがれ!」
「君を傷つけたくないんだよ…マリア。
君を、撃ちたくは無い」
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