親父との思い出

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そんな親父が病に倒れた後、あたしの立場はすっかり不安定になってしまった。 素性の知れない、殺しの技術に長けたボスの愛妾。 あるところでは、あたしを手にした奴が次のボスだなんて噂も飛び交った。 それまであたしのことを白い目で見てきた幹部連中は、手のひらを返したようにこぞって下手に出るようになり、あたしはそれに辟易しながらも病床につく親父の元に足しげく通っていた。 親父の病気は発見が遅く、もう余命幾ばくもないと医者から宣告されていて、親父は療養のためとセキュリティの効いた本部屋敷から郊外の質素な作りの別荘に居を移した。 組織内は次期ボスの話題で持ちきりになり、親父も後継を選ぶようなことを口にしだしていた。 内乱は、起こるべくして起こったようなものだった。 親父が後継を明言する前に黙らせてしまおうという欲深い連中が、組織の一部で密やかに動いていた。親父はもしかしたら、そのことに気付いていたのかもしれなかった。 ある日、届けられた昼食を食べた時、直後に吐き出したことがあった。 それからはあたしが親父の部屋で食材を買ってきて調理するように頼まれた。
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