親父との思い出

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屋敷を出る少し前の夜、あたしは初めてボスのベッドルームに呼ばれた。 親父がいた時とは家具もその配置もすっかり変わっていた。 「リア。  こんな時間に呼んでごめんな」 その時はまだボスは、あたしを親父と同じように愛称で呼んでいた。 「ボスの命令は絶対だかんな、あたしに断る権利はねーよ」 「そんなこと言うなよ…リアはこの屋敷じゃ特別だ」 「んなわけねーだろ。あたしは親父のただの暇つぶしだ」 「リア…本当に屋敷を出ていくのか」 「いまさら何言ってんだよ。好きな方にしろっつったのはボス、自分だろ?」 「そうだな…俺が言い出したことなのに、もう後悔してるよ」 話しながら、ボスはだんだん近付いてきた。 「な…なんだよ?」 あたしのところまで来たボスは突然その腕にあたしを閉じ込めた。ボスの鼓動が早鐘を打っているのが聞こえ、その熱い吐息が耳をくすぐった。 「マリア…お前を抱きたい」 あたしはとうとうボスが血迷ったのかと思った。あれだけ目の前で親父とのアレコレを見てきて顔色一つ変えなかったやつが、今更あたしを手に入れたいなんてどうかしてる。 「お…おまえ、あたしが親父とヤってるところ、散々見てきたじゃねーか!?」 他の幹部は警備のために親父の部屋に居ても大抵背を向けて立っているのが普通だった。その中でこいつだけは、このボスだけは若いくせに一度も顔を背けず何をしていようと最初から最後までこっちのすることを眺めていた。だから無性に腹が立って、あたしもちょっかい掛けずにはいられなかったんだ。 「普通は…壁を向いて立つものだなんて知らなかった…」 言い訳めいた、呻いたようなボスの声がした。 「それに、一度見たら目を離せなかったんだ…」 あたしは呆れるしかなかった。 「親父が、交ざれって声をかけたことがあっただろう」 「そんなこと、出来るわけがないだろ!  ボスの女に、そんなこと…出来るわけが、無い」 あたしは、ボスが昔の幻影を追いかけてるだけなんだろうって、そう思った。一度あたしを抱いて見れば、それで満足するんだろう、と。 「…今のボスは、お前だろ」 「抱かれてくれるのか」 「それでもあたしはここを出る。それは変えないけどな…」 あたしはその夜じゃれあうようにボスと戯れた。 親父がしたようなハードなことはされなかった。
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