親父との思い出

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「マリア…お前は、まだ、この組織に所属する気はあるか」 ベッドに2人で寝そべったまま、ボスはぽつりと聞いてきた。 屋敷を出ても、組織の人間でいる気だったあたしにはむしろ驚くような質問だった。 「あたしを拾ったのはあんただろ…ボス。  屋敷を出たって、あたしはあんたの部下で、あんたはあたしのボスだ」 「そっか。  なあ、リア…」 「マリアでいいよ、ボス。 で、なんだ、まだなんかあんのか…」 「もう一つだけ頼んでもいいか」 「…命令だって言えばいいだろ」 「それじゃ駄目だ。命令していいのなら、出ていくなっていうよ」 「それは聞けねーな」 「だろ?  だから…お願いなんだ」 「まあ、とりあえず聞いてやる」 「…此処に俺の名前を彫りたい」 ボスはあたしの右肩に触れてそう言った。 「お前が遠くに離れても、俺のであることを残しておきたい」 あたしは、それも悪くないと思った。 親父が死んで、ボスに拾われたあたしはもはや根無し草だ。そのくらいしておいてもらわないと、どこかで野垂れ死んでも誰にも気付いてもらえない。 「いいよ。  そのかわり、とびっきりセンスいいデザインを頼むよ」 あたしの要望通り、翌々日にはその下絵が完成して届けられた。 「お前には、棘のある薔薇が似合うだろうと思ってな」 ボスの見立て通り、あたしの右肩から背中にかけて大きく彫られた薔薇と彼の名前は、あたしの白い肌によく映えていた。 あたしはそのタトゥーを手土産に、外の町へと出ていった。 それからイザーと出会うまで数年間、あたしが本部屋敷に戻ることは一度もなかった。
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