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「…そこで新しいボスに就任したのが
ライザー・タルテッサという先代の次男に当たる男だそうだ」
ボスの視線はぶれなかった。あたしが先に目を逸らした。
「2年前の男は、確か、この街では イザータ と名乗っていたな」
あいつが、生きていた…まさか?!
あたしの動揺は、水面を波紋となって伝わった。
これ以上のことを悟られたくなくて、あたしはバスタブから出ようとした。
「マリア、待て…!」
あたしよりもボスの動きの方が速く、強引に腕を取られたあたしはボスの胸に飛び込む形で湯の中に戻されていた。ボスの鼓動は、妙に落ち着いて拍動していた。
「マリアの心にはまだ、あいつがいるんだな」
疑惑に確信を得た、そんな声が耳元で木霊した。
そんなことない、あたしはボスのことを…口に出そうとして、迷った。
あたしは、ボスのことを………何と言おうとした?
尊敬している? 敬愛している? 大切に思っている?
違う。ここでボスが欲しいのはそんな言葉じゃない。
『愛してる』だ…。
出てくる言葉はそれであるべきだった。
でも、あたしの本能はそう応えなかった。
それに気付いてしまい、あたしはボスの腕の中で身を固くした。
ボスはますます強くあたしを抱きしめ、呻いた声で呟いた。
「…マリア、俺はお前を手離さない。絶対だ」
独占欲の滲み出た言葉に、あたしはただ黙ってた。
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