34人が本棚に入れています
本棚に追加
◆◇柏木航介◇◆
麗らかなる春の朝。
昨日の雨はウソのようで、空には淡い青が広がっている。
俺はアパートの外の鉄柵に寄りかかって煙草を吹かした。
寝起きの頭で昨夜の出来事を思い出してみる。
「俺は、仕事帰り、路地で、女の子を………拾った?」
……今のは余りにも簡略化し過ぎた。
昨夜、俺は仕事帰りにいつも通っている路地で傘も差さずに、ただ天を仰いでいる女の子を見つけた。
今にも闇に呑み込まれそうで、今にも消えてしまいそうな、儚げで危うい女の子を。
彼女は小さく呟いた。
『……死んだ方がまだマシだ』
その言葉と一緒に本当に彼女が消えてしまいそうな気がして、俺は声をかけずにはいられなかった。
彼女は寒さからか寂しさからか小さく震えていた。
泣いていたのか雨だったのかは分からない。
彼女は微かに哀しげに微笑んだようだった。そして、眠るように意識を失ったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!