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「それは僕の方だ。もっと優しく、暖かく愛せばよかった。こんなに綺麗な君に、いくつ愛を伝えたかな…プロポーズのとき?かな?」
夫は枕の下に手を入れ、何やら探っていた。
「あなた…?」
「最期に一つだけ…伝えたいんだ。一世一代の大勝負。伝わる…かな?左手を出して…」
幹子は訳もわからずに言われる通りに左手を出した。彼の両手が左手を取る。硬い感触が探るように幹子の左手を這った。その感触は薬指を見つけるとそこでもぞもぞと動き始めた。若干の温もりはあるが、やはり冷たさも残した金属製の輪が、幹子の左手の薬指に通された。
「幹子…今までありがとう。永遠に…い…る」
彼の両手が、静かに布団の上に落ちた。
幹子は暗くなっていく部屋に響かないような小さな声で、最期のプロポーズに返事を、返した。
ー終ー
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