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「できました。残念ね」
あっさり返り討ちである。全く格好がつかない。情けなくなってぬるくなったコーヒーを啜る。いつ呼んだのか、ウェイターが彼女の注文を取っていた。僕と同じホットコーヒーだけ頼み、ウェイターを下げさせると彼女はこちらに向き直って話し始めた。
「久しぶりだね。本当に。ちょっとまた男らしくなったんじゃない?服はダサいけど」
「いつも一言多いんだよ、お前は」
ムキになって返すが別に怒ってるわけではない。これも二人の挨拶の一つだ。不思議だ。貶されているのに心地よささえ感じる。
「お前、少し痩せたんじゃねえか?飯、喰ってんの?」
いつも通り、他愛のない話題しか出てこない。
「親父かよ、お前は。本当に話が下手くそ。それより、こっちの方はどうなの?いなくても出会いはあるでしょ?」
早紀は小指を立てて、にやりと笑う。いつも通りに会話をリードするのは彼女だ。これも変わらない。いつまでも変わらない関係なのだ、僕たちは。
「そんなもんないよ。ダサいんでしょ?そんなのに寄ってくるか?」
「ふふ、来ないね」
「即答かよ…もう少し慰めになる言葉かけてくれよ」
「でも好きな人はいるんでしょ?」
昔から早紀は感が鋭かった。母親が隠した漫画の場所を当てたり、ゲームの選択肢を正しく選んでいたり、終いには僕の如何わしい本の在り処まで嗅ぎつけたことがあった。
「なんでわかるんだよ?」
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