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「早紀ちゃんの鼻は誤魔化せないのです。ほれほれ、我に何でも言うてみなさい」
得意になって身を乗り出す。貧相な胸でも寄るもんだななどと考えながら、自分の近況をつらつらと話し始めた。
「彼女を見かけたのは今年の夏。大学内の食堂だ。最初はあ、可愛い子だなくらいの印象だったんだけど、妙に気になって、授業が重なる度に目で追ってた」
恥ずかしい。しかも、早紀がうんうん、それで?なんて興味津々に相槌なんか打つもんだから、その気迫が僕の羞恥心を煽った。
「それで、ある日の授業で話す機会があって、趣味もあって、意気投合して、今度デート行くことになりました!」
最後の方は早口言葉みたいになってしまったが、なんとか言い終えた。目の前にいる性悪女は目尻がだらしなく下がり、まあまあ、若いっていいわねーなんて言って、完全にバカにしている。
「へえ、そんなことがあったのねえ。お姉さん、ビックリ」
「いい加減バカにするのやめろ」
あら、ごめんなさいと言ってコーヒーを一口啜った。
「でも、その服でねえ。女の子と…」
再び全身に視線が注がれる。流石に鬱陶しい。
「ちゃんとおしゃれして行くよ! お母さんか?」
抜かりなくツッコミを入れる。
「いつだって、あなたの母親のつもりでやってきたわ!」
「誰だよお前は!声でけえよ」
一通りの流れを終え、二人で大笑いする。いつもの光景が目の前にあった。安心する。
「それより、お前の方はどうなんだよ?彼氏いるんだろ?」
「ん…まあね…」
彼女の表情が若干曇る。明らかに幸せムードではなさそうだ。
「なんだよ、それ?隠し事はなしにしようや」
そういうと僕はコーヒーを口にした。冷めきっていて、暖房の効いた喫茶店の中だと余計に冷たさが際立った。
「別れ話進行中でありますよ、隊長」
おちゃらけて敬礼をする腕の袖口から青い痣が見えた。原因は恐らくこれだろう。僕の視線に気づいたのか、袖口を抑え、それを隠す。
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