あの日の涙と、笑顔と

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 お見合いは家によく来る父の友人からの勧めで、昔から『娘が欲しかった』なんて言って可愛がって貰ってたから、断るなんて出来なかった。  ウチの会社の若い子なんだけど……と紹介されたのは誰もが知っている会社の営業職の人だった。  指定されたホテルのカフェに現れたのは、渡された写真とは別人の様な人だった。  不摂生な生活が長くて……なんてニヤつかれて、瞬きを忘れた。  部長クラスのメタボリックな外見と男性にしては甲高い声に、視線は下を向き始めた。  驚きのせいからか、動揺したか、ホテルの柔らかい深緑色の絨毯を眺めてしまう。  向かい合った席では相手を直視できなかった。  二人にされても会話は弾まず、行くあてもなく……ただ街をブラブラして、気まずい時間を過ごした。 「ねえ……そんなに笑う?」  まだヒイヒイ笑っている彼を睨んだ。 「悪い… ぃや~心配して損した。 あぁ~クックックッ …笑いすぎて死ぬ、俺 ヒッヒッヒッヒッ やっぱり馬鹿だな、リツコ」 「うるさいなあ もう、おかわりちょうだいよ」  いつまでも止まない笑いにまたため息をついた。
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