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金の飴 ころん
銀の風 しゃらん
昼と夜が手をつなぐ
時と時が輪を描く
金の風 ひらん
銀の飴 かろん
花の香り 歌の響き
光と闇が おだやかに
歌い続ける このひととき
ころん かろん しゃらしゃらん
かろん ころん ひらひらん
* * *
「おはようございま~す……あれ、紅(べに)さん、これって何を煮ているの?」
朝早く、開店前の『ただの茶屋』にティラミスが入ると、店内に甘い香りが漂っていた。どことなく懐かしい、この香り。
「おはようございます、ティラミスさん。小豆を煮て、餡を作っています。そろそろ中秋の名月でしょう。おはぎを作っています」
「おお、風流」
「秋分の日にこられるお客さまにも、好評なんですよ。ジャパニーズスイーツ」
「煮ても煮ても終わらない~!」
厨房から、悲鳴のような声が聞こえた。
「今の声って、じんさん?」
「はい、応援を頼みました」
店主にうながされ、ティラミスは隅の方にある席についた。
「今日は、どうされます? まだ開店前ですので、ちゃんとした商品がありませんが」
「あはは、また朝ごはん抜いちゃったの。まかないで良いから何か食べさせて~!」
「朝食を食べないと、体に悪いんですよ。まあ、朝早くに来られたから、そうじゃないかとは思っていましたが……」
ティラミスは、照れたような顔で苦笑いをした。
「だって、このお店、見つかる時と見つからない時があるんだもん。今日は絶対、見つけようって思って、電車を二つ早くしたの。そしたら食べ損ねた。
あ~、なんでこんなに迷いやすいんだろ。あたし、そんなに方向音痴だったかなあ?」
店主は何もコメントせず、おだやかに微笑んだ。
「オートミールなら用意できますよ」
「えっと?」
「麦のおかゆです。今朝は和風にしてみましたので、食べやすいと思います」
「あ、じゃあ、それお願いしま~す!」
ぱっ、と笑顔になったティラミスが言う。店主は、はい、と答えてから、厨房に引っ込んだ。
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