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たずねると、「ちゃんとしたものは、まだです」という返事がかえってきた。
「熱いお茶をいただきましたが。掃除が終わってから、食べようと思っていましたから……」
「あ、じゃあ、一緒に食べてもらえません? 一人だと、ちょっとさびしいし」
ティラミスの言葉に、そうしましょうか、と店主が笑った。自分の分の食事を持ってきて、ティラミスの前に座る。
いただきます、と店主が手を合わせ、箸を手にしたのを見てから、ティラミスは尋ねた。
「ね、紅さん。この大根のなますに入ってる、赤いの、なに?」
「干し柿を刻んだものです」
「へえ~……それでこんな風に甘みがあるんだ」
ぱりぽりと食べきってしまってから、ティラミスは豆腐に醤油をかけて、口に運んでみた。ふわ、と柑橘の香りがした。
「ん~、柑橘類の香り……」
果汁もかけてあるようだ。醤油と合わさり、ほんのり、ぽん酢な味わい。
「青ゆずの皮を刻みました。かけてあるのも、ゆずの果汁です。オレンジの皮で代用しようかな、と思ったのですが、旬のものが手に入りましたので」
やはり豆腐を食べていた店主が微笑んだ。
「ゆずなんだ。黄色いのがふつうだと思ってた」
「今の時期だと、まだ青いんですよ」
「香りがフレッシュでサワヤカ……すだちみたい」
ぱくぱく食べてしまう。
ちりめんじゃこの佃煮をちょっとつつく。甘辛い味付けがなんとなく、ほっとする。ほんの少し、七味の気配がした。くるみがこりこりしていて、これも美味しい。
そうして、湯気をたてているオートミール。
「おお~……こういう味なんだ」
塩味だが、米のおかゆより甘みがある感じだった。舌触りもちょっとちがう。
けれど、和風だしのそれに、違和感はほとんどなかった。シラスと梅干しが良い感じだ。
しょうがも入っていた。一さじ、一さじ、口にして、食べ終わった時には体がほかほかしていた。
「んふふー、満足。おいしかったあ!」
食べ終えたティラミスは、満面の笑みを浮かべて、湯飲みに注がれていた番茶をすすった。
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