前篇

9/13

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
 その部屋は、普通の会社の応接室と何ら変わらぬ至って平凡な個室になっている。来客用のソファーとテーブルが一対。事務用と思われる安っぽい机に、訳の分からぬ本が並べられた棚が雑然と置いてあるだけだ。  ただ普通と違うことは、机に向かって怪しげな本に夢中になっている頭のハゲた親父のいやらしい目付きだけであろう。部屋に入った晴美を見たその目は、カマボコを逆さにしたようないやらしい形になっていた。 「会長! 新人です、面接をお願いします!」 「ほほう、またまた来たのかね。いつも最初の意気込みは立派なものだが、この仕事をこなせる人は今までいないしね。大丈夫かな……」  会長と呼ばれたその男は、足元から頭まで舐め回すようにして恭史郎に視線を集中させた。ちょっと見ただけではそこら辺にいるスケベオヤジと何ら変わらない。  恭史郎は場違いな雰囲気に飲まれまいと、両足を踏ん張ってハゲオヤジを見返していた。 「お願いします。早く面接を……」  そういった晴美は、パイプ椅子を持ってきて恭史郎に視線を送った。頑張って、とでも言っているのだろうが、恭史郎は全く分かっていない。 「じゃ、そこに座って……」
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加