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「そこを上手くかわすのが、プロの殺し屋だ。大丈夫、君には素質がある。――晴美君を好きなんだろう。君のものにしたいんじゃないのか」  そう言われて、恭史郎と晴美の視線が重なった。晴美は目を潤ませて喜んでいるようだった。 「会長! 恭史郎さんを会員にしてくれるんですよね! 合格なんですよね!」  晴美はそう叫びながら恭史郎の胸に飛び込んで来た。 「ただし、ここに来たからには脱会はできないよ、口外は無用だ」 「は、はあ……」  恭史郎は何とも答えようがない。まだ自分の置かれた立場を理解していないのだ。 「もしここを出た後に、この会のことを誰かに話すようなことがあれば、その時点で君の生命は終わりだ。いつでも君の命を奪うことは出来るんだからね」 「大丈夫です。恭史郎さんはそんな人じゃありません!」  晴美は恭史郎を庇いながら、会長に詰め寄った。 「分かった、分かったよ。――それでは、キューピットグループの規則と目標を説明しよう」  晴美に圧倒された会長は淡々と話し始めた。  正当な(?)殺人の依頼があったときのみ、会員としての仕事をすること。理不尽な殺人はしないこと。自分の感情で手を出さないこと。緻密な計画の元に行動すること。もし警察に疑われ、指名手配されたときは自害して果てること。団体のグループではあるが、一歩外に出たらあくまでも個人である事を忘れてはならないこと。成功報酬は、プロ野球の一流選手の年俸に等しい額であること。  そして……。 「君は晴美君と交際をしたい、デートをしたい、あわよくば結婚もしたいと思っているようだな」 「も、もちろんです。そのために僕は……」 「晴美君は、この組織に管理されているんだ。彼女を自由にするためには、君たちに与えたノルマを達成しない限り不可能なんだよ」 「ノルマとは、一体……」  やっと晴美の話になって、恭史郎は目が覚めたように訊いた。 「百人斬り! ――これは当初、晴美君に与えたノルマだったんだが、やはり彼女は女の子だ。男だってなかなか無理だろう。そこで、ノルマを達成した勇気ある者に、晴美君を託そうということなんだよ」 「ひゃ、百人……!」  恭史郎は呆然と呟いた。ゴキブリも殺せない自分が、百人も殺せるわけがない。 「恭ちゃん、頑張って! 殺し方は私が教えてあげるから!」  晴美の輝いた目が、恭史郎を一流の殺人道へと誘おうとしていたのである。  
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