0人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「そこを上手くかわすのが、プロの殺し屋だ。大丈夫、君には素質がある。――晴美君を好きなんだろう。君のものにしたいんじゃないのか」
そう言われて、恭史郎と晴美の視線が重なった。晴美は目を潤ませて喜んでいるようだった。
「会長! 恭史郎さんを会員にしてくれるんですよね! 合格なんですよね!」
晴美はそう叫びながら恭史郎の胸に飛び込んで来た。
「ただし、ここに来たからには脱会はできないよ、口外は無用だ」
「は、はあ……」
恭史郎は何とも答えようがない。まだ自分の置かれた立場を理解していないのだ。
「もしここを出た後に、この会のことを誰かに話すようなことがあれば、その時点で君の生命は終わりだ。いつでも君の命を奪うことは出来るんだからね」
「大丈夫です。恭史郎さんはそんな人じゃありません!」
晴美は恭史郎を庇いながら、会長に詰め寄った。
「分かった、分かったよ。――それでは、キューピットグループの規則と目標を説明しよう」
晴美に圧倒された会長は淡々と話し始めた。
正当な(?)殺人の依頼があったときのみ、会員としての仕事をすること。理不尽な殺人はしないこと。自分の感情で手を出さないこと。緻密な計画の元に行動すること。もし警察に疑われ、指名手配されたときは自害して果てること。団体のグループではあるが、一歩外に出たらあくまでも個人である事を忘れてはならないこと。成功報酬は、プロ野球の一流選手の年俸に等しい額であること。
そして……。
「君は晴美君と交際をしたい、デートをしたい、あわよくば結婚もしたいと思っているようだな」
「も、もちろんです。そのために僕は……」
「晴美君は、この組織に管理されているんだ。彼女を自由にするためには、君たちに与えたノルマを達成しない限り不可能なんだよ」
「ノルマとは、一体……」
やっと晴美の話になって、恭史郎は目が覚めたように訊いた。
「百人斬り! ――これは当初、晴美君に与えたノルマだったんだが、やはり彼女は女の子だ。男だってなかなか無理だろう。そこで、ノルマを達成した勇気ある者に、晴美君を託そうということなんだよ」
「ひゃ、百人……!」
恭史郎は呆然と呟いた。ゴキブリも殺せない自分が、百人も殺せるわけがない。
「恭ちゃん、頑張って! 殺し方は私が教えてあげるから!」
晴美の輝いた目が、恭史郎を一流の殺人道へと誘おうとしていたのである。
最初のコメントを投稿しよう!