前篇

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 彼の名は、殺し屋恭史郎。誰も知らない裏組織である殺人集団の一員だ。  今まで数多くの殺人事件が未解決のまま放置されているが、ほとんどの場合、迷宮入りになるような事件はこの殺人集団、〈キューピットグループ〉の仕業なのだ。  ――そもそも彼が殺し屋になったのは、高校を卒業して間もない、ある企業の新人社員として社会の波にもまれ始めた頃の事だった。仕事といっても二十歳前の若者にとっては、青春を謳歌するためのガソリンが満タンになっている状態で、営業成績よりも色恋の成績の方が重要なときだ。  そんなときに表れた絶世の美女。恭史郎が本気で惚れたのは、たぶんこの女、晴美が初めてだろう。まるで強力な磁石がお互いを引き合うように、二人の愛は急激に高まろうとしていた。  ――が、世の中そんなに甘くない。 「私、あなたが好き、愛してるわ。でも……私、あなたの女にはなれないの」  オフィス街のあるビルのロビーで、晴美の声が恭史郎にとって悲しく響いている。二人は今までここでしか会うことが出来なかったのだ。 「どうして? 君には恋人がいるのかい」
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