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哀願する恭史郎の声を聞きながら、しばらく口を閉ざしたままうつむいていた晴美は、何かを吹っ切るように顔を上げた。そして、
「――あなた、人を殺したことある?」
そういった晴美の顔は、至って冷静だった。
「殺し?……」
恭史郎は晴美の意外な言葉に動揺していた。さっぱりわけが分からない。
「あなた、私のこと愛してる?」
「も、もちろん! 君がいない世の中なんて、僕には考えられないんだ」
「だったら……。私について来て」
晴美はそう言って、そのビルの地下室の下、そう、まだ誰も知らない秘密の場所へと導いて行ったのである。
地下の地下、といえば、暗くてジメジメとした息の詰まりそうな雰囲気を想像するが、ドアが開いたその場所は、まるで一流ホテルのロビーをそのまま持って来たような明るい空間が広がっていた。
ビルを見ただけでは想像出来ないほどのそのフロアには、老若男女を問わず、様々な人達が楽しそうに談笑している。
ただ地上の世界と違うことは、そこにいる人達が、ナイフやピストル、ロープに機関銃、手榴弾やダイナマイトなどを手に持った、異様な雰囲気の世界が広がっていたのである。
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