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恭史郎の前を歩く晴美の姿は、いつもと違う華やかさ、というより威厳といってもいい程の空気が放出されていた。
しかし、怖いということはない。凶器を持っている人波の中を歩いていても、その人たちの顔は一般人と変わらない優しそうな表情を浮かべ、至福の限りを尽くした極楽の世界の様相を湛えていたからである。
「は、晴美ちゃん……。ここは、一体……」
「しっ! 今は喋ったらダメ!」
晴美はピシャリと遮った。「あなた、私を愛してるのよね」
「も、もちろん」
「あの人たちに聞かれたら、何もかもおしまいなの。――今から面接があるわ。いいこと、ただ『はい』とだけ言ってればいいからね」
「う、うん……。でも、面接って……」
恭史郎は何がなんだか分からないまま、回りの視線を一身に浴びた晴美の後ろを、ただ黙々とついて行くしかなかった。
悠然と闊歩する晴美に、冷やかしとも妬みとも取れる声が、あちこちから飛び交っている。
「晴美ちゃん! どうしたんだよ、男なんか連れて」
「裏切りっこなしだぜ。ちゃんと約束事があるんだからな」
と、そこまではよかったが、
「そんなひ弱な男に、QGの偉業を達成できるのかな。フフフッ」
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