前篇

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 怖いお兄さんであれば分かりやすいものだが、どこかの交響楽団でバイオリンでも弾いていそうな堅物な青年がそう言ったから、余計にわけが分からなくなって来た。  QGとは、<キューピットグループ>の略称だ。殺し屋の組織にふさわしくない名称だとは思うが、この団体が世間の目に触れたとき、少しなりとも悟られてはいけないという思いから、会員の投票によって可愛げのあるこの名称に決められたのである。  自分に降り注ぐ視線を感じながら、恭史郎はおぼつかない足を進めていた。  パーティ会場のような広間を通り過ぎて、細長い廊下の突き当たりのドアの前にたどり着いた恭史郎に、いつもと変わらない晴美の笑顔が飛び込んで来た。 「さあ、着いたわよ。心の準備は出来た?」 「う、うん……?」  心の準備って、何を準備すればいいんだろう。とりあえず晴美の前だ、そう返事をするしかない。 「いいわね、ただ『はい』とだけ言うのよ、分かった? ――私のためなら、何だってやってくれるのよね!」  晴美の声は、恭史郎に有無を言わせぬ迫力がある。 「も、もちろん、君のためなら……」 「さあ、行くわよ!」  ――しかしてドアは開けられた。
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