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「逃げるぞ、ニコル」
当初、俺の予想していたものとは異なる視線に思わず彼女の身を案じた俺は、反射的に彼女の腕を掴んだ。
「え? 何言ってるの、ユッキー? ケバブは食べ物だから逃げないよ?」
相変わらずこいつは何を言ってるんだ。
ケバブが逃げないのは世界中の誰もが知ってるよ。足も鞭毛も生えてないしな。
そんなことより、お前は身の危険と言うか、もう少し自分の立場を理解した方がいい。
純真無垢……訂正、単なる馬鹿なお前を都会に一人放ったりでもしたらどうなることか。
ああ、目に浮かぶね。
間違いなく迷子になって変なヤロウに声掛けられて誘拐されるんだろうな。
例えばそう、某誘拐常習犯コウノさんあたりに。
「ケバブじゃない。俺たちがこの場から離れるんだよ」
「……なんで?」
「何でって、そりゃあ……」
言葉に詰まった。
まさか「あそこからお前を見てる二人組にやらしいことされるかもしれないから」などと、根拠の無い理由を口にするわけにもいかない。
墓穴を掘ったな。
だが、こうなったからには仕方ない。
焦る俺は『こんな時に言うとベストなワード』を過去の記憶から手当たり次第に引きずり出す。
すなわち美少女を落とす為のフラグを立てる台詞。言ってしまえば、R十八指定の恋愛シュミレーションゲーム『ダ・カーラ』で得た知識を、だ。
「お、お前と離れるわけにはいかないからな……」
自分で言っててかなり恥ずかしかった。
よもや自分の口からそんな言葉が出てくるとは思いもしなかった。
顔を熱くさせる俺。
キョトンとするニコル。
そして、数秒経ってようやく今の言葉の意味を理解したのか、途端に頬を赤らめ口許を綻ばせたニコルは、
「理由になってないぞーっ」
コツン☆ と。本来ならここで美少女の人差し指が俺の鼻を軽く小突くシチュエーションなのだろうが、如何せんニコルの手の内には『特製激辛ケバブ』が握られているわけで、それを真正面からベチャリと顔面に突き付けられた俺は、
「いってえええええええええええええええええええええ!!」
今にも二つの眼球から火を吹くような痛みに悶え絶叫させられたのだった。
…………
……
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